夢と希望を持って日本へ -外国人技能実習生のお話-
昨年2月。
私の職場に2人の外国人技能実習生TさんとFさんがやってきました。
2人ともベトナム人で当時20歳。
最初はお客様のような扱いだったのが半年経って社員になった途端、あらビックリ!
めちゃくちゃ当たりが厳しくなりました。
(いわゆる手のひら返し)
もちろん遊びに来ているわけではない、技術を学びに来ている立場であるのは間違いないのですが、「これも勉強だから」、「あなた方は社員(常勤)なんだから」という言葉で常に上に立つ会社のやり方には側で見ていて不快感しかありませんし、「はい」、「はい」と文句も言わず従っている彼女達を見ていると、なんとも言えない切なさに襲われます。
余談ですが会社は実習生を受け入れるかわりに国から補助金をもらっています。
しかも彼女達は確かに日本語はまだ拙いですが、他の介護職員よりも真面目に仕事に取り組み、自分達の役割をきちんとこなしています。
なのにどうして「雇ってやってるんだから」みたいな傲慢な態度で会社が出てくるのか、私にはさ〜っぱり理解できません。
さて先ほど文句も言わずと書きましたが、実は一度だけTさんが施設長に歯向かった事がありました。
その時ホールに見守りが看護師(パート)、実習生2人しかおらず、不幸な事にその様子を事務所から出て来た施設長がたまたま目にしました。
当時はまだ実習生は社員という立場ではなかったので、施設長は「なんでパートと実習生しかいないの?なんで社員がいないの!?」と、火がついたように怒り出しました。
(でもこれ、実習生が悪い訳ではないですよね?)
そしてトイレの前で利用者が出てくるのを待っていたTさんに向かって、「あなたはそこで突っ立って何をしてるの!!」と食ってかかりました。
この施設長の強めの言い方に気が動転したのか、Tさんも「利用者さんを待ってるんです!」と、少しばかり強めに答えてしまいました。
これを『反抗』と見なした施設長は怒り狂い、すぐに実習生と管理者、実習生の指導者を呼び出し、「何しに日本に来ているんだ!」、「指導者が甘やかしてどうするんだ!!」、「あなた達が甘やかした結果、彼女達が試験に通らなかったらどうするんだ!!!」と激しく叱責しました。
このエピソードを当時実習生と一緒に現場にいた看護師さんに「昨日大変だったんだから」と聞かされた日、またまた事件が起きてしまいました。
利用者の昼食が終わって次は歯磨きという時、ある利用者の入れ歯が欠けているのをTさんが見つけました。
それが今欠けたのか、これより前に欠けていたのかは誰もわかりませんでした。
しかしもし今欠けたのだとしたら破片が口の中に残っているかもしれませんし、最悪の場合飲み込んでしまったかもしれません。
慌てた管理者は、すぐに看護師を呼びました。
(ちなみに管理者はデイサービスと有料老人ホームの責任者で、施設長は全ての部署の責任者を指します。もちろん別人です)
そして心配になり、駆け寄ったTさんに管理者は言いました。
「私は看護師さんを呼んだの!Tさんは向こう行っていいから!!仕事に戻って!!!」
その言葉に一瞬固まる職員達。
(なんでそんな言い方しかできないのかね)
超絶不愉快になった私は誰もいない有料老人ホームにある職員用のトイレに“避難”しました。(←クールダウンしないと頭に血が上ってキレそうになるんです)
トイレから出てくるとTさんがいたので「おう!」と声をかけると、Tさんは目を真っ赤にして泣いていました。
これは日本人代表として失敗できない場面だと悟った私は、精一杯Tさんを励ましました。
あなたは一生懸命やっている。
それは現場で働いている職員はみんなわかっている。
施設長も普段それを見ていないのにあれだけの事で叱りつけるのは良くないし、管理者も言い方が適切ではない。
つまりあの人達も偉い立場だけど良くない部分はあるから、気にしない方がいい。
我ながら完璧なフォローだと思いました。
しかしこの言葉をTさんがどう受け止めてくれたかはわかりません。
働き始めた頃は明るく朗らかで「毎日が楽しいです!」と言っていたTさんでしたが、この後日に日に表情が暗くなり、口数も減っていきました。
一方のFさん。
Fさんはすらりと背の高い美人で、年の近い男性職員S君とウマが合うようでした。
S君もそれが嬉しかったのか、Fさんの誕生日にちょっとした贈り物をしたりと、わかりやすいように彼女を特別扱いしました。
「恋だね〜。羨ましいですなぁ」
と呑気に好意的な捉え方をしていたのはどうやら私だけで、S君は管理者や施設長から厳しく注意されました。
恋愛なんて言語道断!
職場では業務に関する事以外話すな!!
プライベートでも一切関わるな!!!
とまぁ、そんな感じです。
それからというもの、管理者は徹底してS君とFさんを引き離しました。
ある時私とS君とFさんの休憩が同じ時間帯になり、私が先に休憩室を出ると、「あの2人を2人きりにしないで!」と管理者から注意された事もありました。
そんな悲恋(?)の2人ですが、最初私は、S君が可愛くて年も近く、話の合うFさんに惹かれ、浮かれただけだろうと思っていました。
しかし最近になって、どうやらFさんもS君を非常に好意的に見ているという事に気づきました。
なぜならFさんのS君が困っている時にさっとフォローする仕草や、ちょっとした時の声かけが他の職員へのそれとは全然違うからです。
それに全く気付いていないS君は、上司に厳しく注意された後あからさまにFさんに対して素っ気なくなりました。
あんなに楽しく話していたS君から突然冷たくされ、それでも健気に何事もなかったように優しく接するFさんを見ていると、ものすごく切なくなります。
会社によっては職場恋愛を好意的に捉えていないところもあるようですし、ましてやこの2人の場合1人は外国人技能実習生なので、ある程度きちんと線引きをするのは仕方のないことかもしれません。
ただ私個人としてはもっと他にやり方があるのでは?と思います。
(私がS君ならもっと常識的で待遇のいい会社に転職して、堂々とFさんに声をかけるんですがね)
そんな折、あるNPO法人が外国人技能実習制度の廃止を求めて署名を開始したというニュースを目にしました。
キャッチコピーは「外国人を奴隷化する技能実習制度の廃止を求めます!」というなんとも衝撃的なもの。
奴隷かぁ…。
あくまで私の職場の話ですが、実際間近で彼女達を見ているとそう思わざるを得ない部分はたくさんあります。
夢と希望を持って、多くの努力と犠牲を払って日本にきたはずの彼女達。
せめて彼女達が日本に来て良かったと思ってもらえたら、日本でのこの実習が彼女達の人生を豊かなものにしてくれたらとは思いますが、残念ながら現実はそうもいかないのかもしれません。