泣いていいですか? 〜前編〜
【登場人物】
私:デイサービスで機能訓練指導員として勤務している理学療法士(パート)。7月いっぱいで退職が決まっている。
Mさん:同じ事業所内の訪問看護ステーションで働く役職付の看護師。この3人の中では一番職位が高い。デイサービスの業務には一切関わっていない。
管理者:デイサービス管理者。
【状況】
30以上の事業拠点(主に介護)を運営する会社で勤務している。これまで一部の看護師やセラピストは各事業所に所属という形をとっていたが、組織改革に伴い今年6月から看護師とセラピストは全員「医療事業部」という部署の所属となり、形式的には医療事業部から各事業所に配属しているという事になった。これにより私には現場の上司(デイサービス管理者)、部署の上司(Mさん)という2人の上司ができた。
退職願を管理者に提出したのが4月30日でした。
5月に入り引継書を作成するように管理者から言われたのですが、雛形や書き方の注意点や見本等は一切なく、全くの白紙ベースから作成しなければなりませんでした。
当然何をどう、どんな風に書けばいいのか全くわからなかったので、それはもう非常に困りました。
しかし月に15日程しか出勤日数がない上に残業してもお金は一円も出ません。
おまけに6月までにデイサービスで働く常勤職員(正社員)に引き継ぎを済ませ、7月は一緒にやってみるという流れが決まっていたので、業務をうまくやりくりしながら時間を作り、ひと月かけてなんとか引継書を仕上げました。
6月10日に出来上がった引継書と追加の資料を管理者に提出すると、「まつかぜさんの業務は医療事業部にも関わる事だから、これと同じものをMさんにも提出して」と言われたので、言われた通りもう一部プリントアウトしてMさんにも提出しました。
この時私はMさんに「この引継書は要点は押さえてありますが、必要最低限の内容で作成してあります。実際引き継ぎを行う場で大事なところは記入してもらって、書きながら記憶に落とし込んでもらおうと考えています。引き継ぎ自体はおそらく三十分ほどで終わると見込んでいますが、そこはあくまで皆さんの理解度にもよるのではっきりとした事は言えません」と付け加え、Mさんも「わかりました。目を通しておきます」と答えました。
またこの時期ちょうど手当の件で色々ゴタついていたので、自分の中で決着をつけたいと思った私は、新たに上司となったMさんに「皆さんの言ってる事が違うので、実際のところはどうなのか教えて下さい」と手当の事について尋ねてみました。
Mさんの答えは「処遇改善手当をもらっている以上、勤務時間外だろうが研修や会議には出席する義務がある」というものでした。
さらにMさんは「そう言えばあなた達さ、ヒアリングの時事業所勉強会はなかったって言ったよね?」と切り出し、「でも管理者に聞いたらちゃんとやってるって言ってたよ」と言いました。
聞けば「時間外に研修や勉強会をすると言うとパート職員、特にKさんとまつかぜさんはすぐにお金の事を持ち出す。お金の事を言われるとこちらとしては何も言えないから、今まで事業所勉強会の事をパート職員には言えなかった」と管理者がMさんに言ったらしいのです。
私が時間外手当の事を言ったのは5月27日、休みであるにも関わらずデイミーティングとヒアリングに出てこいと言われたこの一回きりなので、管理者のこの主張は意味不明なのですが、いかなる理由があれパート職員に事業所勉強会の開催について黙っておこうと判断したのは管理者です。
なので通達がなかった以上、私を含めパート職員全員が事業所勉強会の存在について知らなかったのは仕方のない事ですし、だからこそヒアリングの際も「そんな勉強会は今までなかったです」と、その場にいた全員が答えたのです。
でもMさんの常識では「実際にあった事をなかったって言い切るのはおかしい。知らない方が悪い」と言うのです。
マジかーーーーー…。
サンドイッチマンの富澤よろしく、ちょっと何言っているかわからない状態に陥った私でしたが、Mさんは「そもそもお金の事が不透明だからと言って今まで研修や会議に出なかったの?そんなのあり得ないからね!!」と非常に強い語気で言い放ちました。
(むしろお金の事は働く上で一番大事な事だと思うのですが)
Mさんは「今後は有給とか勤務に関する事は管理者、業務の事は私に聞いて」と付け加えた後、さらに何やら言っていましたが、話の通じない人とは話をしたくない、早くこの場を立ち去りたいと思った私はひたすら「はい」、「はい」と頭を下げ続け、その場は事なきを得ました。
それから十日もしないうちに管理者から「6月27日に常勤職員が全員集まるので引き継ぎを行ってください」と言われ、さらに「終わったら『業務引継書』を記入して提出して下さい」という内容の社内メールも届きました。
私はこの決定は管理者とMさんが話し合った上で決めた事だと思いました。
なので(ヒャッホー!ついに来たか!!三十分で終わるか二時間かかるかわからないけど、退職した後「ここどうするんですか?」なんて電話がきても困るし、いっちょやったるか!)と、私なりに張り切っていました。
ところが当日。
引き継ぎは16時半から開始予定だったのですが、管理者の都合で急遽17時開始に変更となり、さらに18時になると「これから先まつかぜさんは残業扱いになるのでここまででいいです。まつかぜさんがいるうちにわからない事はまつかぜさんに聞きながら、来月は実際に我々の方で書類を作ってみましょう」と一方的に終了宣言をされ、びっくりするほど突然かつ中途半端な形で引き継ぎは終了しました。
皆ものすごく険しい顔をしていて、ほとんど理解していないのは明らかでした。
とはいえ私の方から「残業になるんで帰りますね」などと言った訳でもないし、全ては管理者による指示なので、引き継ぎはこれで終わりでいいんだろうと思いました。
そして6月30日、管理者から社内メールで送られていた『業務引継書』という、引き継ぎを行ったという証明書(議事録?)に必要事項を記入し、管理者に言われた通りMさんに提出しました。
これで大事な業務は全て終わった。
7月の書類は常勤職員が作成すると言っていたし、あとは事故なく7月29日の最終出勤日を迎えるだけ。
そう思いながら、私は7月を迎えました。