とりあえず、"SO WHAT?"

30代後半からエンジニア転職を目指すパート主婦が、転職活動や日々思った事を自由気ままに綴る雑記ブログ

20220328113618

この国のエッセンシャルワーカーの年収が低い事を理学療法士のケースで説明します!!

エッセンシャルワーカー

エッセンシャルワーカー

最近にわかに市民権を得た言葉、『エッセンシャルワーカー』。

エッセンシャルワーカーとは別名キーワーカーともいい、最低限の社会インフラを維持するのに必要不可欠な働き手を指す言葉です。
(一応私も理学療法士なので、以前からこの言葉は知っていました)

日常生活においてこれまではほとんどと言っていいほど聞かなかったこの言葉が、コロナ禍になって突然あちこちで多用されるようになった背景には色々な事情があると思います。

しかし私個人としては、この国が何か耳障りのいい言葉を使う時は、なんとなくですが打算や小狡さが透けて見えてしまいます。
東日本大震災の時の「絆」しかり、ラグビーワールドカップの時の「ワンチーム」しかり。すごく良い言葉なのに、政治家やメディアが多用しだすとしらけるという…)

はからずとも未知のウイルスと前線で対峙しなくてはならなくなった医療や介護、保育に従事している方々。

しかし国はこの未曾有の危機において「あなた方は社会に必要不可欠な、まさにエッセンシャルな存在です!」と毎日のようにアナウンスする割には、そういう方々の報酬が上がるような仕組みをつくることを今までサボっていました。
(医師を除く)

充分な報酬と評価を受けている分、社会に貢献しよう!

そういうわけでもないのに自分や家族の命さえも危ぶまれる環境で働かなくてはならないなんて、もはや聖人クラスの自己犠牲と使命感、強い責任感がなければできる事ではありません。

そういう人達の必死な頑張りに対し、安全なところからお礼や賞賛、エールを送る事だけで済ませるのは、ちょ〜っと虫が良すぎるのでは?と思うのは私だけでしょうか?

しかしこんな事を言うと「でもその仕事を選んだのは本人ですよね?なら仕方なくないですか?」と屁理屈をこねてくる人がいそうですが、それはちょっと違います。

確かにその仕事を選んだのは本人かもしれないでしょうが、自分の職場がそういう状況になってしまったのは本人が決めた事でありません。

辞めるにしても自分の抜けた後の事を考えると簡単に退職というわけにもいかないでしょうし、そんな責任感のある人に向かって「じゃあ辞めればいいじゃん!」なんて無責任な事は言えないはずです。

最近の日本は何かにつけて自己責任論を展開しようとする人間がごく一部存在しますが、こういう人達は「子供は親を選んで生まれてくると言いますので、例え虐待で殺されたとしてもその親を選んで生まれてきたのは本人なわけですから、仕方ないですよね?」とも言えるのでしょうか?

いつも思うのですが、こういう人達って本当に想像力が乏しいですよね。

さて話を戻しましょう。

保育士がどうかはわかりませんが、医師を除く医療従事者や介護職の給与がなかなか上がらないのは、病院や介護施設の収益が診療報酬や介護報酬という税金でまかなわれている事が大きな要因です。

外来だけの診療所(クリニック)なのか、300床を超える大病院なのか、介護サービスも提供しているのか。

それぞれの類型や機能にもよりますが、開業間もない病院やそれこそコロナのような天変地異の出来事でもない限り、おおよその収益の見通しは立てられると思います。

そして一般企業のように「今年はこの商品が売れたから売上も利益も上がった!!」というような事はなかなかないので、だいたいが内部留保か何かしらの資金に回り、人件費に還元される事はあまりありません。

介護業界はもっと悲惨で、介護職の給与が低いというのはもはや周知の事実です。

以前職場の研修で講師を務めた某大学の教授が「国はお風呂やトイレ、食事の手伝いなどはあくまで生活の延長であって、特別な資格がなくても誰でもできる事だという考えが根本にある。それに対して税金から報酬を払うわけだから、介護報酬は診療報酬とは比べ物にならないほど低く設定されている」と言っていました。
(個人的には赤の他人のオムツを変えたり、全く動けない人を安全にお風呂に入れたり、嚥下状態によって食事形態を変えたりというのは、誰にでもできる生活の延長だとは思わないんですがね)

さて、先ほどサクッと『医師を除く医療従事者や介護職の給与がなかなか上がらないのは、病院や介護施設の収益が診療報酬や介護報酬という税金でまかなわれている事が大きな要因だ』と述べましたが、これはどういうことなのか?

私の職種である理学療法士を例に、少し具体的に説明しましょう。

理学療法士の給与、なぜ低い?

イケメンドクターA氏が、脳神経外科医としてある程度のスキルを身につけたので、そろそろ独り立ちしたいと思い立ちました。

しかし手術も行う脳神経外科病院となると、当然術後のリハビリの必要性が出てきます。

そうなると病院の規模を少し大きくする必要があり、とてもA氏1人ではできそうにありません。

そこでA氏は、弟で同じくイケメンドクターであるB氏とC氏に、「一緒にやらないか?」と話を持ちかけます。

兄弟仲はすこぶる良かったので、2人は迷う事なく兄の誘いを受け、兄弟はA氏の45歳の誕生日に急性期治療から回復期リハビリを受けられるケアミックス型の病院を開院しました。

さて、A氏は手術が非常にうまく、B氏とC氏も兄に負けず劣らず高度な知識とスキルを持つ医師でした。

ネットでの評判の良さが功を奏し、60床あるベッドは1年を通して満床。

発症、もしくは手術から数えて概ね5ヶ月〜半年での退院を目安に、患者の入れ替わりを随時行っていました。

そんな3兄弟の病院には、理学療法士(以下PT)が7名、作業療法士(以下OT)が5名、言語聴覚士(以下ST)が3名が在籍しており、開放的でお洒落なリハビリテーション室はPT、OT、STそれぞれの訓練室を合わせて300平方メートルほどありました。

以上の事から診療報酬で定められている脳血管リハビリテーションⅠの施設基準をクリアしているので、この病院ではセラピストが20分訓練を行えば、1単位(※1)=245点(※2)の報酬が病院の収益になるシステムになっていました。
(※1:1点=10円、※2:2022年2月現在)
(以下の試算において、いちセラピストよる収益は訓練を実施した時に算定できる点数のみで計算し、加算などについてはフルシカトしています)

この病院に勤務していたPTのアキラさんは、ある日友人であるマコトさんとの電話で、そろそろ恋人との結婚を考えているが、年収が350万円とそれほど高くなく、かつ今後の昇給も見込めないことがネックで、プロポーズに踏み切れずにいるという悩みを打ち明けました。

マコトさんは専門学校の同級生で同じくPTなので、アキラさんはこの悩みに共感してもらえると思いきや、なんとマコトさんは半年前に公務員試験を受けて、今は公務員として役所で働いていると言うではありませんか!

マコトさんは言います。

マコトさん:
「セラピストは1日の標準が18単位、24単位を上限として、週に108単位まで単位を取ることができるわけじゃん?アキラんとこの病院は脳血管リハⅠだから、1単位245点算定できるでしょ?ザッと計算すると、週に264,600円、ひと月を4週だとすると月1,058,400円、年間だと12,700,800円の収益を、1人のセラピストが生み出している事になるよね?」

アキラさんはそんな事を今まで考えたことがなかったのでびっくりしましたが、確かにマコトさんの言う通りです。
(ちなみに以前は、この『セラピスト1人あたり週108単位まで』という上限と、ここでは出てきていないのですが標準的算定日数(医療保険を使ってリハビリを受けられる日数)という縛りはなかったので、リハ職というのは非常に収益を生み出す職種とされていました)

マコトさんは続けます。

マコトさん:
「アキラの病院は経営が上手でめちゃくちゃうまくいっている例だけど、でも経営のことは本来セラピストには関係ないことであって。裏を返せばうまく条件さえ整えて貰えれば、これくらいの貢献はできるってことじゃん?それに何よりリハビリは病院の売りになるし、もしセラピストが学会とかで発表したら、病院の宣伝にもなるでしょ?実際の収益の他にも、セラピストがもたらす利益って大きいものがあるじゃん?それなのにさ、せいぜいよくて年収400万で定年退職まで働けってさ、嫌にならない?『専門職は一生勉強だ!』とかって謎の根性論出してきて、業後や休日に勉強会とか症例検討会とか入れるくせに、評価は何も変わらないなんてひどくない?『これからも頑張ろう』、『この病院に貢献しよう』って、思えなくない?」

気がつくとアキラさんは電話越しに大きく頷いていました。

マコトさん:
「公的病院や企業系病院は別だけど、個人病院は大きな利益が出ても内部留保に回るから、昇給はほとんどないし、あっても数百円、良くて数千円程度じゃん?もうさ、安い給料で使い倒されてる感じがして、俺は経営者の愛を感じないのよね。だからPTとして働くのに見切りをつけて、昇給と退職金がいい公務員に転職したってわけ。来月子供が生まれるけど、将来的な不安は今のところだいぶ解消されたかなって思ってる」

「えーーーー!!お前結婚したの!?」

アキラさんは自分でも驚くほどの速さでツッコミを入れていました。

公務員に転職した事、来月第一子が誕生する事。

マコトさんからのダブルサプライズに動揺しながらも、コロナが収束したら飲みに行こうと約束を交わし、アキラさんは電話を切りました。

そしてその日はずっと、アキラさんの頭の中で色々な想いがグルグルと巡っていました。

補助金はありがたい!!ありがたいけども…

お疲れ様でした〜!

以上はセラピストを取り巻く環境をドラマ仕立てでご紹介させていただきましたが、実在の人物のエピソードに基づいたストーリーです。

リハビリテーションの点数は、病院の診療科目や施設基準などによって大きく異なりますが、現在1番高いもので245点、1番低いものでは46点となっています。

年間1200万以上の収益を生むセラピストに対し、400万前後の年収は少ないのか。

逆に最大でも年間1200万ほどしか利益を生み出せないわけだから、400万前後の年収は妥当だと考えるのか。

今回はあくまで収益だけに焦点を絞っていますが、これはもう経営者の考え方次第だと思います。

しかし実際は後者のような考えを持つ経営者の方が圧倒的に多いと思われます。

このように、セラピスト個人の頑張りや訓練の質云々ではなく、そもそも診療報酬でひとりのセラピストが生み出す収益の上限が決められている事から給与額が決定され、かつ診療報酬の増加が具体的に見込めない事から昇給も望めないという絶望的な仕組みがお分かりいただけたと思います。
(全く経験のない新卒だろうがベテランだろうが、座位訓練だと言ってただ20分椅子に座らせているだけだろうが20分みっちり訓練をしようが、1単位の点数は変わらないわけです)

ただ日本は世界を代表する超高齢社会であり、最近では児童発達支援などのサービスも増えているので、セラピストが活躍できる幅はますます広がっていくと思います。

養成校の乱立で確かに有資格者は増えましたが、きちんとスキルを磨いてきた有能なセラピストは、より良い条件での転職が可能ですので、「巷にセラピストは溢れていると聞くし、替えはいくらでもきくだろう」と考えているようなところには長く居つく事はないでしょう。
(現にリハ職は買い手市場だと言われて久しいですが、ずーーーーーっと求人を出しても見向きもされない施設は一定数あります)

そして最後に一言よろしいでしょうか?

医療従事者ってエッセンシャルなんですよね?

その割にはこの現状は、ちょっと希望がなさすぎやしませんか?

今後本当の意味でエッセンシャルワーカーの方々の待遇改善が行われたらいいなという願いを込め、この記事を書きました。

そのためには「医療(もしくは介護や保育)の道に進んでも、この国じゃ夢はないよね」と若者が気づいて従事者が減少してしまう前に、偉い方々にはもう少し想像力を働かせて、本気でなんとかしていただきたいなと思います。

ちなみに岸田総理が介護職員を対象とした賃上げ効果が継続される取り組みとして[介護職員処遇改善支援補助金](https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000872481.pdf)を打ち出しました。

もちろんありがたい事ですよ?

しかしその引きあげ率たるや収入のたった3%程度です。

なんだかなぁという思いは拭えなくもないですが、それでもこの補助金のおかげで私の時給が1000円を超えたので、良かったと思う事にします。

今回も長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。